【コラム】脱線する力が、思考を育てる
「先生、私、話がすぐ脱線しちゃうんです」
ある生徒が笑いながらこう話してくれました。
前回の記事ではこんなことを書きました。
話しているうちにテーマがどんどん広がっていく子は少なくありません。
けれど私はそれを“悪いこと”だとは思っていません。
むしろ、脱線する力こそ、思考の柔軟さの証だと思っています。
「話がずれる」は「つなげて考えている」のサイン
一見、話があちこちに飛んでいるようでも、子どもの頭の中ではちゃんとつながっています。
「夏休みの思い出」から「海」へ、「海」から「生き物」へ、さらに「環境問題」へ。
テーマが変わっているようでいて、実は“関連づけ”をしながら考えているのです。
この“連想”の力がある子は、作文を書くときにも強いです。
なぜなら、ひとつの話題から多方向にアイデアを出せるから。
反対に、話があまり広がらない子は、書く内容も一本調子になりがちです。
だからこそ、脱線の中にこそ、思考の枝葉をのばすヒントが隠れているのです。
教師ができるのは、“戻す”より“拾う”こと
レッスンでは、つい「話を戻そう」としてしまいがちです。
でも、子どもが脱線した話の中には、興味や疑問の芽が潜んでいます。
「それって、前に話してたことと関係あるね」「どうしてそう思ったの?」
こうして“拾う”姿勢で聞くと、子どもは自分の思考を言葉にする力を伸ばしていけます。
もちろん、ずっと脱線していたら授業が進まないのも事実。
でも、ひと呼吸おいて「この話、あとで少し続きしようか」と受け止めてあげるだけで、
子どもは安心して考えを広げられるようになります。
「脱線力」は創造力の土台
私たちは「集中する力」を重視しがちですが、
実はその裏にある“あちこちに興味が向く力”も同じくらい大切です。
興味の幅が広がることで、思考のネットワークができ、
結果的に、問題解決力や表現力の伸びにもつながっていきます。
たとえば、「リンゴ」と聞いて「赤い」「丸い」「おいしい」だけでなく、
「青森」「農家」「りんごジュース」「絵本の中のりんご」…
そんなふうに連想できる子は、思考が豊かで柔軟です。
これはまさに、“脱線”が自然にできる子の特徴です。
おわりに
脱線することは、話を外すことではなく、
自分の中の知識や経験を使って“つなげて考える”こと。
それができる子は、学びの中でも発想を広げ、
「答えを覚える」から「自分で考える」へと一歩前に進むことができます。
「脱線=集中できない」ではなく、
「脱線=考える力の広がり」として見ていくこと。
それが、これからの学びに必要な柔軟さを育てる第一歩なのかもしれません。
(沢村)