【コラム】「ノートは手で書いたほうがいい」は、どこまで本当か

英語(英検対策)・国語・社会・理科を教えている左雲(さくも)です。小学生低学年から高校生まで、年代を問わず幅広く担当しています。 わたしのブログでは、日々の授業での経験をもとに、勉強の取り組み方や成功事例、時には生徒と話し合った時事問題などについて綴っています。

先日、生徒から「ノート、タブレットに打つのじゃダメですか」と聞かれました。手で書くより速いし、自分の字が汚くて読めないこともある。言い分としてはもっともです。

ただ、この十年ほどで「手で書く」ことをめぐる研究が進んでいて、その結果が少し意外なので、ここで少し書いてみようと思います。

脳は、書いているときのほうが忙しい

ノルウェー科学技術大学の研究チームが2024年に発表した実験があります。大学生36人に、画面に出てきた単語を「手書きする」か「キーボードで打つ」かのどちらかで記録してもらい、そのあいだの脳波を256個のセンサーで測りました。

結果は、手書きのときのほうが、脳のいろいろな領域どうしのつながりが広く現れる、というものでした。研究チームは、こうした広い結合は記憶をつくり新しい情報を頭に入れるときに重要で、学習に有利にはたらくと述べています。同じチームが2020年に12歳の子どもと若者を対象に行った実験でも、手書きのときだけ作業記憶と関係する脳波が見られました。

キーを押す動きは、どの文字でもほぼ同じです。一方、手で書くときは、文字ごとに違う形を自分でつくり、ペン先の感触があり、自分の字を目で見ています。この情報量の差が効いているようです。

速く書けないことが、実は仕事をしている

もうひとつ、手書きには「遅い」という弱点があります。ところがこれが、学習のうえでは働き者になります。

先生の話す速さに手が追いつかないので、書く側は「どこを残すか」を選ばざるをえません。たとえば理科の授業で「植物は光のエネルギーを使って二酸化炭素と水からデンプンをつくる」と説明されたとき、全部は書けない。

それで「植物は自分でごはんをつくる=光合成」と縮めて書く。この縮める作業そのものが、内容を理解していないとできない作業です。

逆に言えば、板書をそのまま丸写ししているノートは、手書きであっても効果が薄いということです。手が動いているだけで、頭は素通りしているということです。

大事なのは、一度自分の頭を通すこと

ですから私は、生徒に「全部手で書きなさい」とは言いません。長い資料を残すならタイピングのほうが便利です。

そのかわり、「これは覚えたい」と思ったところだけは手で書く。しかも、先生の言葉ではなく自分の言葉に直して書く。この二つをお願いしています。清書し直す必要もありません。清書は、たいてい頭を通さずに手だけ動かす作業になるからです。

おわりに

海外で暮らしていると、日本語を手で書く機会そのものが減ります。学校ではその国の言語を使い、日本語はもっぱら読むか話すか、という生活になりがちです。だからこそ、一日に数行でいい、日本語を手で書く時間があると違ってきます。日記でも、読んだ本の一文の書き写しでもかまいません。手が覚えたことは、思っているより長く残ります。

優心オンラインでは、海外在住者専門の個別指導塾として、指導経験の豊富な講師陣が、生徒一人ひとりの理解度や興味、学習環境に合わせてきめ細やかなサポートを行なっています。 ただ勉強ができるようになることを目指すのではなく、ひとりひとりのお子さんが楽しんで勉強に取り組み、生きる力を身につけることに重きを置いています。 海外にいながら、日本の学校の学習に合わせて進めることも可能です。 お子さんの学習について何かご不安な点があれば、ぜひ一度当塾にご相談ください。

参考文献

Van der Weel, F. R., & Van der Meer, A. L. H. (2024) “Handwriting but not typewriting leads to widespread brain connectivity: a high-density EEG study with implications for the classroom”, Frontiers in Psychology. https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2023.1219945/full

Ose Askvik, E., van der Weel, F. R., & van der Meer, A. L. H. (2020) “The Importance of Cursive Handwriting Over Typewriting for Learning in the Classroom: A High-Density EEG Study of 12-Year-Old Children and Young Adults”, Frontiers in Psychology, 11:1810.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7399101/

リコー経済社会研究所「デジタル時代に手書きを学ぶ理由」(2024年5月22日) https://blogs.ricoh.co.jp/RISB/society/post_908.html